タイの「30バーツ医療制度」

日本のように誰しもが健康保険に加入している国は、世界的には稀有な存在である。米国でも現大統領が公約に掲げた医療保険制度の導入を進めようとすると、反対派の抵抗に逢い国家予算が成立しないなんて事態にも発展した。当然、タイにおいても医療保険(健康保険)制度は未発達で人口の7割が医療保険に未加入な状態であると言う。

そんな状況を変えるべく、2001年10月に時のタクシン首相が導入したのが、標題の「30バーツ医療制度」である。これは保険に加入している公務員や会社員以外を対象(要は非インテリ層)とした制度で、どんな病気の治療、投薬、入院でも1回30バーツ(約100円)で受診できるというものだ。対象となる医療行為は幅広く、出産や予防接種、健康診断や入院食等も対象となっている。(性転換手術などは対象外)制度の利用には、本籍地の保健所や医療機関で登録しIDカードの発行を受けるのみで、保険料等の負担はない。財源は酒税やたばこ税などの税金が充てられている。

 本論とはそれるが、こうした政策は特に農村部では恩恵を受ける人が多く、タクシン派の選挙での大きな原動力になっている。しかし一方でインテリ層には、バラマキ政策と批判している。現在のタイの動乱はこうしたタイの格差社会、階級社会のひずみが大きな背景となっている。

しかしこの制度を利用するのはどこの病院でも良いと言う訳ではない。この制度を利用した患者を受入れるか受入れないかは、病院の判断となっている。実態を見ると国公立の病院は国策によるこの制度の受入をしているが、私立病院ではこの制度を受入れる病院は殆どない。そのためこの制度を利用できる病院に、今まで医療を受けられなかった患者が殺到し大混雑となっている。そんな様子を見た私立病院はこの制度の受入にますます消極的になるという循環が発生している。結果的に金持ちは綺麗で快適な私立病院に行き、低所得者層は公立病院で長い列を作るという現象が起きている。

低所得者層も医療を受けられるようにと言う発想は政治として正しい発想であるとは思うが、手段としてはあまりに極端なやり方でそれゆえに問題点もあるようである。


8 responses on タイの「30バーツ医療制度」

  1. 鉄路迷 より:

    私は、逆に国民健康保険なんて「やめちまえ」と思っている方でして・・・。
    民間の保険会社に医療保険も任せてほしいです。
    これがある限り、医療の崩壊が進み、医師の質も下がります。
    国民が高度な医療を受けることは無理だと思います。

  2. いはち より:

    へ~。
    出産にも適応するのですか~。それは賞賛される事なのですが・・・
    日本の場合は強制的に加入なんですよね。
    例えば一定の職に就いていて社会保険に加入して
    いた人が、退職して無職になったときから
    強制的に国民健康保険に入るんです。
    「俺は元気だから、そんなの払わない。」と言って
    三年不払いをしたとしても、3年間遡って
    請求されます。
    この辺はもうちょっと自由にすれば良いとおもうのですが。
    これはある意味、助け合いだから仕方の無い事でしょうけど。
    それならいっそ、タイの制度も良いですね。

  3. 餌釣師 より:

    医療保険の制度はどこまで行っても正解がないですよね。
    何かをすればどこかしらに不満は出てしまう。
    それでもまだ世界からみれば日本は上手くいってる方だと思っていたんですが、ドクターのコメントを見ればやはり歪みはあるんだなと思いました。
    タイもさることながら中国も大変ですよね。
    まさに命は金で買うものというのが良く判ります。

  4. ま~く より:

    Dr.鉄路迷さん
    医療現場の詳細は私にはわかりませんが、そう言った考え方も
    あるのですね。最近の小学校の運動会では徒競走でも順位を
    付けないなんて話を聞いたことがありますが、「なんでも平等」
    という日本らしい制度なのかもしれませんね

  5. ま~く より:

    いはちさん
    日本の出産費用は高いですからね。
    少子化の一因はそんな要因もあるのではと思ってしまいます。
    ただタイの出産事情は日本と大きく違っていて、大抵の人は
    陣痛が始まってから病院に行き、入院せず日帰りで帰ってくる
    ケースも多いようです。
    ただこの制度の大きな問題は、全国民が対象でないことで
    それがインテリ層の不満を呼び今の混乱の一因となっています。
    制度の内容があまりにも貧困層にだけ有利ですからね

  6. ま~く より:

    餌釣師さん
    国民皆保険は日本が世界に誇れる制度だと思っていただけに
    Dr. のようなコメントで認識を新たにしました。
    確かに中国も大変ですね。
    持てるものと持たざる者の格差が確実に大きくなっています

  7. あさと より:

    この医療制度をそれだけで導入したことがばらまきの批判を生んだんですね
    ある部分だけをして関連部分を放っておく
    タイでは当たり前のように色んな所にそれが見受けられます
    列車の乗り継ぎや道路の作り方
    商業施設の作り方・・・・・

  8. ま~く より:

    あさとさん
    対象を絞った事が現政権に批判が向けられる一因ですよね。
    ワンマンな経営者がいる会社でも見られる現象ですが、トップが
    言い出した何かを実現する。しかし関連のある事でもその他は
    放っておく。まぁ以前の政権トップがああいう方でしたからね


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