3月24日に投票が行われるタイの総選挙を巡って各党の争いが激しさを増しています。従来、タイの政局はタクシン元暫定首相派(タイ貢献党)と、反タクシン派(民主党)の二大勢力で争っていましたが、今回の選挙はこれに親軍政党が加わり複雑な様相を呈しています。
新憲法下の選挙制度
2017年4月に公布・施行された現在のタイ王国憲法では、タイの国会は上院250名、下院500名で構成されることになります。上院に関しては勅撰で50名は中央選管が、200名はNKPC(国家治安維持評議会=軍政)が選任することになっています。しかし選管も軍政の元におかれており軍政の意に反する人物が選任されないはずですので、上院に関しては引き続き軍政の影響下に置かれることになります。
一方で下院の500名は小選挙区選出の350議席と比例代表の150名に分かれます分かれます。また比例代表の配分方式は、大政党に不利と言われており小選挙区の得票が比例代表の議席獲得につながらないのも特徴です。
各勢力の動向
乱立する政党
2月11日の発表によると今回の総選挙には36政党が参加することになっています。タイ貢献党、民主党、国民国家の力党、国家維持党、民族発展党、新未来党、国家発展党、タイ公民党、新民主主義党、新経済党、サイアム発展党、タイ民主社会党などです。
前述の通り新憲法、選挙法では大政党が不利ですので、大政党が小政党を分離設立したこともあり多くの政党が乱立する形になっています。例えばタクシン派は中核となる貢献党の「友党」として国家維持党、国家貢献党などを新設して分散を図っています。
軍政派
軍政派はプラユット暫定首相の続投を目指していますが、そのハードルは高くありません。上下両院を合わせた過半数は376名ですが、そのうち250名は前述の通りすでに軍政派が手にしています。つまり下院選挙で126名が当選すれば、プラユット暫定首相を正式な首相として選出することが可能となります。
圧倒的に優位な状況を活かしながら、小政党の取り込みを行うなどして過半数の獲得に躍起となっています。
タクシン派
農村部を中心に根強い支持を受け過去の選挙でも常に勝利してきたタクシン派に関しては、だれが首相候補になるのかが当初注目されていました。そんななか、タクシン派タイ国家維持党は、2月7日にワチラロンコン国王の姉のウボンラット王女を首相候補に届出ます。ウボンラット王女は米国人と結婚した際に、王族を離れていますが離婚後に王族待遇を得ています。これで一気に流れがタクシン派に傾くかに思われました。
しかしそんな流れに待ったをかけた人物がいました。他ならぬワチラロンコン国王自身です。その日のうちに王女を「王室メンバーの一人」とした上で、「王室の高位にある者が、どんな方法にしろ政治に関与することは、王室の伝統に反し、不適切」とし王女の首相候補擁立に反対したのです。
国王の声明を受け軍政側はすぐに反撃に出ます。王女を擁立したことが立憲君主制に反するとして、国家維持党の解散を申し立て、裁判所がこれを認めます。しかし前述の通り各政党は分散していますので、政党解散がすぐには選挙戦からの撤退とはなりません。王女擁立では目算が狂ったものの、引き続き高い支持率を得ながら選挙戦を進めています。
反タクシン派
反タクシン派の中心となるのは、アピシット党首(元首相)の率いる民主党です。民主党のなかには軍政を支持する勢力と、軍政に反対する勢力がおり、アピシット党首がどちらの立場をとるのか注目を集めていました。アピシット党首はその態度表明を先延ばしにしてきましたが、3月10日に軍政に反対する意思を示します。
軍政としては議会の過半数を取れなくても民主党との連立をもくろんでいたようですが、この態度表明は誤算だったようです。ただし民主党内もかつて日本にあった同名政党と同じく一枚岩でないことから離反する動きが起きる可能性をはらむ不安定な状況となっています。
選挙の展望
いよいよ選挙が迫ってきましたが、最新の世論調査によれば各政党の支持率は以下のようになっています。
- 新しい未来党(反軍政派):27%
- 民主党(反タクシン派):24%
- タイ貢献党(タクシン派):19%
- 国民国家の力党(軍政派):12%
そして小選挙区の議席獲得タイ貢献党は130~150を得て下院の第1党となる見込みです。一方で軍政派は60~70議席程度とみられており、単独で上下両院の過半数を獲得するのは困難と見られています。
最後に
2014年5月の軍事クーデターから約5年の軍政を経て、ようやくタイの政治も正常化します。軍が政治に深くかかわる状態が継続する選挙制度自体に問題がある面が否めませんが、そろそろ政治的混迷->クーデターというスパイラルからは脱却して欲しいものです。
でも
下院で負けても大丈夫なような制度改革を
軍政側はすでに行ってるという話を聞きます
軍政自体はあまり好きではありませんが
タクシンも好きではありませんから
どっちもどっちというのが私見です
ただ日本国民としては
安全で行きやすい国で
決して人民共和国のようになってほしくないと思ってます
あさと さん
以前にスワンナプームが占拠されたような混乱だけは勘弁してほしいですね。あの一件では私の知人もタイから出国できず難儀していました。
今回の新憲法制定、選挙制度はかなり恣意的なものとなっていますからね。それでも軍政側の旗色はよくないようです。