ガラパゴス化した日本の国籍制度

少し前に某政党の前党首が日本と台湾の二重国籍だとして、大きな話題となったことがあります。本日は重国籍に関する話を書いていきたいと思います。

カズオ・イシグロ氏について

小生がこの記事を書こうと思ったきっかけとなったのは、2017年のノーベル文学賞を日系イギリス人のカズオ・イシグロ氏が受賞したことです。カズオ・イシグロ氏は1954年に長崎県に生まれ、27歳の時に英国に帰化し、日本国籍を放棄しています。これは日本が二重国籍を認めていないためです。

このことについてカズオ・イシグロ氏は「残念ながら、日本は二重国籍を許しません。(中略)100%日本人になるか、日本のパスポートを捨てるかどちらかでした。最終的には感情的には日本ですが、すべての実用的な理由から、私は英国籍を選びました」と語っています。本人は日本国籍の維持を希望していたものの、やはり住んでいる場所を国籍が一致している方が実用的だとの判断があったものと思われます。

しかしこうしたことを通じ日本を批判的に論評したり、日本人のノーベル賞受賞者が受章する文化勲章を与えるべきだなどと言う論調を目にすることがあり、違和感を感じざるを得ません。

日本が重国籍を禁止する根拠

そもそもなぜ日本は二重国籍を認めていないのでしょう?その根拠となるのは戦前の1930年締結された「国籍法の抵触に関連するある種の問題に関する条約」という条約の存在です。条約では無国籍と二重国籍を消滅させる義務があるとする、「国籍唯一の原則」を謳っています。(ただし日本は署名したものの批准はしていない) 

また戦前の徴兵制度も影響しています。陸軍省と海軍省は外国籍取得が徴兵逃れの抜け穴となる事を危惧し外国籍取得による国籍離脱を許容しませんでした。そのため旧国籍法では国籍離脱するにはまず日本政府に対して出生を届け直し、それから数年の審査を経て許可を待たねばなりませんでした。こうした古い制度や考え方が、未だに底流にあるのです。

重国籍者を巡る各国の対応

しかし第二次世界大戦が終結し世界各国で植民地が解放されたり、国境を跨ぐ人の往来が活発になりグローバル化が進むと次第に「国籍唯一の原則」が時代にそぐわないものになっていきます。

世界各国の二重国籍を認めるかどうかをまとめてみると以下のような状況となります。

国名 可否 状況
アメリカ 1967年に最高裁判所で重国籍が認められる
イギリス 国籍選択の制度なし
カナダ 1977年から他国籍を取得しても国籍が消滅しなくなる
フランス 1889年から帰化の際に国籍放棄を求めず
ドイツ 1999年から部分的に重国籍を容認
イタリア 1992年に重国籍者の国籍選択制度を廃止
オーストラリア 2002年に外国籍を取得した際に、国政が消滅するとの規定を廃止
スイス 1990年に帰化条件に求めていた原国籍放棄の規定を廃止
台湾 重国籍を容認
※台湾を国家として認めない国は中国の国籍法を適用するとされる場合がある
ブラジル 国籍選択の制度なし
ペルー 国籍選択の制度なし
韓国 2010年に在外韓国人に限って条件付きで重国籍を容認
インド 2003年に在外インド人の重国籍を容認
フィリピン 2003年位在外フィリピン人の重国籍を容認
シンガポール × 重国籍者は21歳までに国籍選択を行う義務
タイ王国 × 重国籍者は20歳になってから1年以内に国籍選択を行う義務
中華人民共和国 × 外国籍を取得した場合、自国籍は自動消滅すると明記

こうしてみてみると重国籍を認めるというのが世界の潮流のようです。

重国籍者に対する日本国内法の規定

日本で重国籍となる主な要因は以下の2パターンでしょう

 (A)日本国籍を取得(帰化)後も、原国籍の喪失手続きを行っていない
 (B)父母のどちらかが外国籍

日本国籍取得者(帰化)の場合

日本国籍を取得後も元の国籍から離脱していない人は、重国籍者となります。帰化に当たっては無国籍者を発生されてはいけないという大原則がありますので、手続きは①日本国籍の取得、②外国籍から離脱と言う順にならざるを得ません。日本国籍の取得によって一時的に重国籍状態となりますが、その後に重国籍を解消してくださいと言う事です。しかし日本国籍の取得のみで手続きを終了すると、重国籍の状態が継続する事になります。某政党の前党首はまさにこのパターンです。

しかしこのパターンで重国籍になったままとなっている人は意外に多いものと思われます。たとえばブラジルは国籍離脱を認めていませんが、何人ものブラジル人が日本に帰化しサッカーの日本代表になっている姿を見ていると思います。彼らは日本国籍取得後も、ブラジル国籍を保有しています。日本としてもブラジルが国籍離脱を認めていないにも関わらず、日本国籍の取得を認めているという事は必然的に彼らが重国籍者となる事を認識している訳です。

父母のどちらかが外国籍の場合

父母のどちらかが外国籍で両国に出生届出ている場合、その子供は重国籍者となります。この重国籍者について日本の国内法では22歳までに国籍選択を行うよう求めています。日本の法律ではその手続きについて規定があり、外国籍を選択する場合は以下の手続きを行うよう求めています。

※図は法務省のサイトから引用

外国籍を選択する場合

  1. 国籍離脱届を提出(国籍法13条)
  2. 国籍喪失届を提出(戸籍法103条)

後者については相手国に国籍選択の制度がある場合のみ可能で提出先は市区町村役場となります。しかし相手国に国籍選択の制度がない場合は前者の届出を法務局に提出する事となります。いずれの場合でも、届出の提出とともに日本国籍は消滅します。

日本国籍を選択する場合

  1. 外国国籍喪失届を提出(戸籍法103条)
  2. 国籍選択届を提出(戸籍法104条の2)

前者は相手国の外国籍を喪失したことを証明する国籍離脱証明書を添えて市区町村に提出する事になりますので、重国籍を解消したことが明白となります。一方で後者に関しては、「日本国籍を選んだよ!」と市区町村に提出するだけです。外国籍の離脱は努力規定となり実際に相手国の国籍が残っていたとしても、罪に問われることはありません。

有名野球選手のなかにも国籍選択届を提出し、日本国籍の選択を宣言したものの原国籍が残ったままとなっている人もいます。

有名無実化した制度

ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領も重国籍者ですが、汚職が判明し日本に逃げてきたという事がありました。ペルー政府は日本にフジモリ元大統領の引き渡しを求めましたが、日本政府は二重国籍者であるため日本人であるとしてその要求を拒否しています。

前述のサッカー選手のケースでもそうですが法律としては重国籍者を認めないとしているものの、運用上は重国籍者を黙認しているという状態です。このような状態はやはりわかりにくいですし、当事者をいたずらに不安を感じさせる状態となります。世界の時流に合わせ、制度の見直しを行う必要があるものと思います。件の某政党の前党首の騒動が国会で、揚げ足取りに終始し重国籍に関する根本の議論に至らなかったのは残念でなりません。

2 responses on ガラパゴス化した日本の国籍制度

  1. あさと より:

    このことに関しては
    新たな問題も生じますので
    現行が良いとは言いませんが
    ガイドラインが必要だと感じます
    国際的な問題がその人に関して起こった場合
    判断基準になるラインがなければ
    解決策さえ出てきませんから・・・・・・・

    1. ま~く より:

      あさとさん

      二重国籍を認めよというわけではないのですが、法律の規定と行政の運用が乖離しているというのは分かりにくいですし改めるべきだと思います。例に挙げた某政党元党首のように、潜在的に二重国籍になっている人と言うのは、それなりの数いるのだと思います


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