タイにおけるビール事情

タイのビールと言うと、日本では真っ先に白地に金の獅子が描かれたシンハービール(タイでの呼び方:ビアシン)を思い浮かべる人が多いと思います。しかしタイ国内における知名度では、日本人の認識とは違う現状があります。

タイ国内のビール市場シェア

2015年におけるタイ国内のビール市場のシェアはブランド別に以下の通りとなっています。

順位 ブランド 会社 市場シェア
1位 LEO ブンロート・ブルワリー 49.5%
2位 チャーンビール タイベバレッジ 36.3%
3位 シンハービール ブンロート・ブルワリー 4.9%

タイに馴染みのない人には意外かもしれませんが、シンハーのシェアは3位に留まります。私自身もタイの農村部に行った際も、BIG Cのような大手スーパーであればシンハーの取扱いはありますが、個人商店でシンハーを見たことはありません。販売されていたビールはすべて、LEO(タイでの呼び方:ビアリオ)でした。

タイのビール史

タイにおけるビール醸造の歴史は、第2次世界大戦前にまで遡ることになります。

黎明期

1934年にブンロート・ブルワリー社(以下、ブンロート)がドイツと技術協定を締結しタイでのビール醸造を始めます。これがシンハービール(タイでの呼び方:ビアシン。以下、シンハー)の始まりです。

当時のタイでの酒として都市部で一般的に飲まれていたのは、メコンと言う米と糖蜜を主原料とするウィスキー風の酒でした。高価なビールはあまりタイ人には受け入れられませんでした。また農村部においてはどぶろくのような土着の酒が一部で作られていたにすぎません。当時は多くのタイ人は上座部仏教の戒律の影響で飲酒に関しては非寛容な考えが強かったようです。そのためタイでの飲酒文化はまだまだ未発達な状態でした。

そんな背景からブンロートが製造するシンハーは、外国人向けや外国輸出向けのプレミアム酒と位置付けらます。タイ国外でシンハーの認知度が高いのはこういった事情もあるようです。

ビールの成長期

1980年代後半になり経済発展を遂げると、タイでも食の西洋化が進みます。また中産階級の増加により一般庶民でもビールを飲む習慣が広まっていきます。当時のタイでは輸入品をのぞき、シンハー以外のビールの選択肢がなかったため独占的な地位を築くことになります。

そのためタイ国内におけるシンハーのシェアは90%以上を占めることとなります。

巨獅子への挑戦者

タイで独占的な地位を築いた、シンハーを販売するブンロートに対して正面から戦いを挑む会社が現れます。それが新興財閥のTCCグループのビアタイ社(現在のタイベバレッジ社。以下、タイベバレッジ)です。

1991年にデンマークの「カールズバーグ」を販売し、プレミアム酒で正面からブンロートとぶつかります。しかしブンロートはその圧倒的なシェアを利用し、割り材のソーダの抱き合わせ販売などで対抗し徹底抗戦を図りタイベバレッジの攻勢を退けることに成功します。

象の誕生

カールスバーグの販売に失敗した、タイベバレッジは路線転換を図り再びシンハーの牙城の切り崩しを仕掛けます。それが1995年に発売した緑地に象のデザインをあしらったチャーンビール(タイでの呼び方:ビアチャン。以下、チャーン)です。

カールスバーグとの提携を活かし、チャーンビールは中産階級からローエンドの労働者(=メコンの愛飲者)をターゲットに、アルール度数が高く飲みごたえがあるビールとしてチャーンを開発します。価格設定もシンハーより30%も低価格とし人気ロックバンドをCMに採用し市場に投入します。同時に「ウイスキーを買うとビールがついてくる」と言ったような徹底したプロモーションを行ったことによりシンハーの牙城を崩します。結果、一部の販売チャネルを奪うことに成功し、一気にマッケートシェアトップに立つこと成功します。

レオの反撃

こうした状況にライバルのブンロートも座視しているはずもありません。ブンロートはシンハーとは別路線のセカンドブランドとして、LEO(タイでの呼び方:ビアリオ)を1998年に市場に投入します。チャーンよりもお洒落で若者的なイメージを打ち出すことによって、瞬く間に浸透することに成功し2010年にはブンロート社のシェアを64%にまで回復し、チャーンのシェアを30%以下にまで低下させます。


ブランド別のシェアでもLEOはチャーンを上回り、首位を奪回することに成功します。

獅子の苦悩

一方でブランド別に見た場合のシンハーのシェアは回復の兆しを見せません。前出の2015年のブランド別のシェアでも5%にも満たない状況です。その知名度から海外向けには一定の需要があるものの、国内での販売は振るいません。こうした現状を受け、ブンロートでは、2014年にはシンハーの大瓶の生産を停止する事態に陥っています。

今後の展望

現在ではLEO、チャーン、シンハーの3大ブランドで「三国鼎立」のような状態となっていますが、この状態もいつまで続くのかと思っています。世界的に見れば2000年以降のビール業界はM&A続きです。2016年にビール業界世界1位のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブが同2位のイギリス・SABミラーを買収したことはまだ記憶に新しいいところです。また東南アジアで大きなシェを握るシンガポール・タイガーもそのシェア拡大を虎視眈々と狙っています。

次にタイのビール業界に動きがあるのはこういった国外ビールメーカを巻き込んでとなるかもしれません

6 responses on タイにおけるビール事情

  1. あさと より:

    3ブランド拮抗かとおもってましたが
    ビアシンのシェアはここまで下なのですね

    我々は観光客が多い所で飲み食いしますから
    とうしてもビアシンとの遭遇率が高いのでしょうね
    確かに私自身も最近は
    チャーンを飲む機会が多くなっています

    私は難いに行き始めた頃は
    ビアシンしかなく
    あの象のマークは
    ドリンキングウォーターで馴染み深かったです
    それもガラス瓶でです
    リオは
    実はまだ意識して飲んだことがありません
    無意識の内に飲んでたかもしれませんが
    なんかね
    ラベルがね
    好みではありません(笑)

    1. ま~く より:

      あさと さん

      思った以上にビアシンが落ち込んでいるかと思います。私も以前はビアシン->チャーン->LEOの順なのだと思っていました。しかしタイにしかも地方都市に行くようになると、逆にビアシンを見る機会が殆どないことに驚きました。

      LEOのラベルは確かに3つのブランドの中では一番野暮ったい印象を私も受けています。ただ現在ではタイで最も好まれているビールですので、機会があれば試してみてください。日本のタイ料理店でも以前はビアシンしかおいていないお店が多かったですが最近はLEOを置いているところが増えてきたように思います。

  2. いはち より:

    私、先日のタイフェスであんなに売り場が目立っていたので
    ビアシンが一番メジャーなのかと思っていました。
    Tシャツまでもらったし。
    3パーセントと言ったらほぼ流通していない・・・と言う感じに
    うけとられます。
    私好みの味でしたけどね。(他のは意識して飲んでいないのですが)
    象さんのビールはマークさんが飲まれていたものでしょうか。
    あの時、いろいろとチャレンジすればよかったと思いました。

    1. ま~く より:

      いはち さん

      ビアシンはタイ国外では圧倒的な知名度がありますので、それを活かして国外販売に力を入れているのでしょう。ですのでタイフェスのようなイベントではかなり力を入れてプロモーションをしています。

      タイフェスで一番最初に私が飲んだ緑の缶がチャーンです。本文中の最後の写真はタイフェスでのものですが、こちらがLEOですね。私の場合、タイで飲みなれたせいもあるかと思いますが、LEOが一番好きです

  3. 鉄路迷 より:

    シンハーは思ったより人気ないんですね。
    他のビールより、高額なのかなあと最初は思いましたがそういうことではなさそうですね。

    1. ま~く より:

      Dr.鉄路迷

      シンハーは高級品と言うイメージが強くつきすぎてしまった感がありますね。実際に他のビールよりも少し割高です。タイの場合、政治でもマーケットでも圧倒的多数を占める農村部の人たちの支持を受けると強いですね

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